最近は音楽も完全デジタル化されたため、CDなどからパソコンや携帯音楽プレイヤーに転送し音楽を楽しんでいる方も多いでしょう。
ところで、皆さんはどのような形式でパソコンや携帯音楽プレイヤーに音楽ファイルを転送していますか。
MP3(.mp3)やAAC(.m4a)であると答えた方、これら形式は非可逆圧縮音源といってデータ容量を減らすため音のデータをある程度そぎ落としています。よって、CDから直接聴く音楽よりも音質が低下しているのです。
高いヘッドフォンやプレイヤーを購入しているのも関わらず、MP3などの非可逆圧縮音源で音楽を聴いているのは非常に勿体ないです。そうでなくても常にCDと同じ音質で聴きたい、CDデータを良い状態で保存したいと考えている方は、どうにかして改善したい問題でしょう。
そこで登場するのが、音質の劣化を伴わない音楽形式である「可逆圧縮音源」です。
この形式でCDから取り込むと、音質の劣化を伴うことなく、さらにデータ容量も抑えながらパソコンなどに転送することができます。このブログでは、「可逆圧縮音源」について数回に渡り紹介と解説をしていきたいと思います。
今回は「可逆圧縮音源」の種類と特徴を解説していきます。
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詳しい内容を解説する前に、まずは以下の記事をお読み頂くことをお勧めします。特に「エンコード・デコード」や「コーデック」、「ビットレート」という用語はこの分野において必須の単語なので、どういった意味なのかを前もって理解してから記事を読み進めてください。
「もう知ってるよ!」という方は飛ばして頂いても結構です。
実際に可逆圧縮フォーマットで取り込みたい方は以下の記事をお読みください。(この記事の次回にあたる記事)
ブログ内リンク:Exact Audio Copy – CDから可逆圧縮形式で取り込む方法「設定編」
「無圧縮音源」「可逆圧縮音源」「不可逆圧縮音源」
まずは「無圧縮音源」「可逆圧縮音源」「不可逆圧縮音源」について話します。
無圧縮音源
無圧縮音源とは、名前の通り圧縮処理をされていない音声データのことを指します。
この記事のテーマに沿ったもので言うと、CDから音声データをそのまま手を加えず取り込んだものです。有名な無圧縮フォーマットは「PCM」や「LPCM」です。WAVコンテナに入っていることがほとんどですね。
圧縮処理が全くされていないので音質の劣化が無く原音のままで聴くことができるのですが、その代わりデータ容量が半端なく大きくなってしまうのが欠点です。3~5分の一曲のみで50MB~70MBの容量を持つこともあります。
可逆圧縮音源
可逆圧縮音源とは、「展開・伸張をすると圧縮前の状態と完全に等しくなる圧縮方法(=可逆圧縮)」で圧縮された音源です。
可逆圧縮音源は、ファイル容量を減らすため無圧縮音源データを圧縮(エンコード)するのですが、圧縮されたデータはデコードすることで元の無圧縮音源に完全な状態で戻すことができます。つまり、音質の低下はありません。
再生ソフトが再生時にデコードすることで無圧縮音源と同じ音声を出力することができます。圧縮の仕方(コーデック)によって可逆圧縮音源にも種類があります。
圧縮処理をしているので無圧縮よりはデータ容量を少なくできますが、不可逆圧縮と比べるとかなり大きくなってしまいます。(3~5分の曲で30MB~50MBほど)
不可逆圧縮音源
不可逆圧縮音源とは、「展開・伸張をしても
圧縮前の状態とは等しくならない圧縮方法(=不可逆圧縮)」で圧縮された音源です。
つまり、CDから不可逆圧縮形式で取り込んでしまうとデータをそぎ落としてしまうため音質の劣化が起きます。
その代わり、データを実際に無くしていくので可逆圧縮音源とは比べものにならないくらいデータ容量を少なくすることができます。MP3などが有名で、ビットレートを下げれば数MBまで小さくすることができます。限られた保存容量の中で、とにかく曲数を多くしたいなら可逆圧縮ではなく不可逆圧縮で取り込む必要があります。
2011年9月15日追記:不可逆圧縮がどのように音をカットするのか、音声周波数を解析して調べてみた記事がありますのでリンクを貼っておきます。興味のある方はどうぞ。
ブログ内リンク:不可逆圧縮音源の音声波形を見て性質を理解する
FLAC
FLAC【フラック、Free Lossless Audio Codec】は、オープンソースとして開発されているフリーの可逆圧縮音声ファイルフォーマットです。
(※オープンソースとは、名前の通りプログラムの設計図であるソースコードを公開すること。これによりだれもが自由にプログラムを弄ることができ、より良いプログラムへと改善させることができます。)
特徴
長所
- 拡張子は「.flac」。
- エンコード・デコードが速い。
- 一部のコンテナに入れることができる。
-
他の可逆圧縮音声フォーマットより再生に対応しているソフトや機器が多いため、それなりに汎用性がある。
- 圧縮率を「level 0 ~ level 8」まで設定できる。
-
アーティスト情報などのタグ情報を入れることができる。(FLACタグ)
- エラーに強い。
- マルチチャンネル対応。
- リプレイゲイン互換。
短所
- 全体的に圧縮率は低め。よってファイルサイズはあまり抑えられない。
FLACの特徴はなんと言っても、多くのソフトウェア・ハードウェアが再生に対応していることです。
(MP3やAACほどではないですが。)
私が所持している携帯音楽プレイヤー「SONY WALKMAN」もFLACの再生に対応しています。最近のプレイヤーでしたら多くのソフトで再生できるでしょう。(ただ、iTunesは非対応)
特にこれといったデメリットもなく初心者でも扱いやすい可逆圧縮フォーマットとなっています。
圧縮率は低めなのでデータ容量は抑えにくいです。
APE
Monkey’s Audio【モンキーズ・オーディオ】というアプリケーションによって圧縮された可逆圧縮音声フォーマットです。これもオープンソースです。古くからあるフォーマット。
Monkey’s Audioはフリーウェアですのでだれもで利用できます。
特徴
長所
- 拡張子は「.ape」。
-
非常に圧縮率が高いため、大幅にデータ容量を抑えることができる。
-
アーティスト情報などのタグ情報を入れることができる。(ID3タグ・APEタグ)
- 再生に対応したソフトウェアが多い。(FLACよりは少なめ)
- 高い圧縮率の割にはエンコードが早い。
短所
- 再生に対応したハードウェア(機器)は少なめ。
- エラーには弱い。
- デコードは遅め。
- マルチチャンネル非対応。
APE形式は、とにかく圧縮率の高さが魅力のフォーマットです。音質の劣化無く、なおかつ容量も抑えたい方はAPE形式で圧縮するといいでしょう。
ただし、ソフトウェアによる対応はそれなりにされていますが、ハードウェアによる対応はあまりされていないため携帯音楽プレイヤーで持ち運ぶ場合には再生対応表をよく見ること。
TAK
TAK【ティーエーケー、Tom’s lossless Audio Kompressor】は、フリーの可逆圧縮音声ファイルフォーマットです。比較的新しいフォーマット。
FLACのコードをベースに開発されました。
特徴
長所
- 拡張子は「.tak」。
-
FLAC並(もしくは以上)に高速なエンコード・デコード速度をもつ。
-
Monkey’s Audioのhighレベルと同程度の圧縮率を誇る。
- APEtag対応。また、
TAKファイル内にメタデータ(cueシート)を格納する事も可能。
- エラーに強く、シークも早い。
短所
- 再生に対応したソフトウェアが非常に少ない。(Winamp・foobar2000用プラグインくらいしかない)
- 再生に対応したハードウェアに関してはほぼ皆無。
TAKは、それぞれの可逆圧縮フォーマットのいいところをどんどん取り込んだようなフォーマットです。圧縮率、エンコード/デコード速度、エラー耐性など他のフォーマットに比べ総合的に優れています。圧縮率に関しては、平均して元のデータの50%まで抑えることができます。
また、cueシートを格納できるので、CD丸ごとタグ情報を含めながらひとつのファイルにまとめることができます。
ただし、比較的新しいフォーマットで開発も十分にされていません。そのため、再生に対応したソフトウェアが非常に少ない、ハードウェアに関してはほぼ皆無です。
再生に対応したソフトウェアも、Winamp・foobar2000用プラグインくらいしか見かけません。汎用性は全くないので利用する場合は注意が必要です。Winamp・foobar2000を使っているならばTAK形式で圧縮してみるとよいでしょう。
TTA
TTA【ティーティーエー、The True Audio】は、フリーの可逆圧縮音声ファイルフォーマットです。
「ハードウェアサポートの容易さ」を目標に、開発が進められています。オープンソースです。
特徴
長所
- 拡張子は「.tta」。
- エンコード・デコードが速い。
- 圧縮率も高い。
-
アーティスト情報などのタグ情報を入れることができる。(ID3タグ、APEタグ)
- 再生に対応したハードウェアが若干存在する。
- エラーに強い。
- リプレイゲイン互換。
- マルチチャンネル対応。
短所
- 再生に対応したソフトウェアが少ない。
- パイプ処理非対応など機能面がイマイチ。
TTAは、エンコード・デコードが速いことが魅力・・・なんですが、TAKの登場により随分と中途半端な形式なってしまいました。
再生に対応したソフトウェア/ハードウェアが少なく、非常にマイナーな形式です。
機能面でもイマイチなので私はあまりこの形式で圧縮することはお勧めしません。
まとめ
一般的に、容量を少なくしようとするとエンコード・デコード速度は遅くなります。
また、いくら圧縮しているとは言え、実際にデータをそぎ落とす不可逆圧縮のMP3やAACと比べればデータ容量は圧倒的に大きいので、HDDやフラッシュメモリなどの容量と相談しながら可逆圧縮フォーマットを利用してください。
自分が「どんなソフト・機器で再生させたいのか」「(曲数を多く入れたい、保存容量を節約したいから)圧縮率を重視するのか」「素早くエンコード・デコードさせたいのか」がはっきりすれば、自ずと利用したい形式が見つかることでしょう。
ただ、MP3などの不可逆圧縮フォーマットでもビットレートが320kbpsとかであれば大して音質の違いはありません。それで満足しているのであれば敢えて可逆圧縮フォーマットを利用する必要はありません。むしろ、容量が圧倒的に小さいので不可逆圧縮フォーマットの方が良いでしょう。まずは、その辺りをよく考えてみてください。
可逆圧縮音源について学んだところで、次回は「CDから可逆圧縮フォーマットで取り込む方法」を解説したいと思います。
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